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IBA
2010年の中間報告

欧州グリーン首都ストックホルム
IBA対象地区のミニ写真集。上から下:▶浮いている展示場IBAドックのロゴマーク(撮影Inet k)▶1962年の洪水(撮影Gerhard Pietsch)▶メトロゾーン:昔の農家と70年代の大型集合住宅(撮影Martin Kunze)▶港湾施設、工業地帯、鉄道と道路に挟まれた住宅地(撮影Falcon Crest Air)▶エルベ川の砂浜(撮影Martin Kunze)。

昨年はリンクIBAハンブルクの中間報告年でした。課題は中心市街地と郊外に挟まれ、寂れてしまった都市空間の改良です。およそ100年前に産業都市として誕生した街の産業が減り、住宅が衰えただけではなく、地区内に集中している港湾施設、鉄道や道路の騒音や公害が著しい。すべての大都市が抱えているような空間です。問題解決が困難で、ここ数年は何回手をつけても、進歩があまり感じられませんでした。

その結果、住民をなるべく多く巻き込んで、2006~2013年にリンク国際建設博覧会(IBA)を開くことが2004年に提案されました。

内容
リンクIBA地区の歴史 ||  リンクコスモポリス ||  リンクメトロゾーン ||  リンク気候変動における都市 ||  リンクIBAプロジェクトの特徴 ||  リンク思ったこと、感じたこと 

IBA地区の歴史

IBA地区のほとんどが産業革命のときに生まれました。エルベ川の中州が港湾開発に伴って大きく変わり、元の漁村と農村の代わりに造船所や貨物船のバースが増えながら、港で働く労働者の住宅が建設されました。

大きな被害と数多くの死亡者をもたらした1962年のエルベ川氾濫と労働力をあまり必要としないコンテナの普及が、当時は栄えていた産業地区の命を変えました。「危ない!」と、地区の評判が悪くなり、仕事が無くなり、多くの人が別の地域に引っ越しました。地価が下落し、低所得者や外国人居住者が増えてきました。

今は地区内の教育水準が他の地区と比べて低く、失業者は数多くいます。地区が抱えている問題を解決するために、市営企業により運用されているIBAがその的をコミュニティ、空間利用と環境影響削減の3テーマに絞りました。

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コスモポリス

IBA地区内に暮らしている人口の半分が外国人居住者で、国籍は40カ国以上です。この多国籍のコミュニティ「コスモポリス」がIBAの一つのテーマです。

教育

ドイツ語さえできない人や学校教育をあまり受けていない人には社会参加のチャンスが限られているので、子供や青少年の教育水準を上げることは緊急課題です。さらには、大人の生涯学習も必要です。教育を受ける機会を増やすために教育機関やメディアセンターを増設し、誰でもが参加できるプロジェクトを実施することになっています。住民参加で計画され、オープンな雰囲気を持っている学校がその目玉とされています。この学校の図書館、環境教育センターや劇場が地元住民にもオープンとなります。

また、ハーフェンシティー大学との共同プロジェクト「近所の大学」が都市計画への新しいアプローチを目指しています。学生が5年間にIBA地区で勉強し、街を建物とインフラの「ハード」としてのみならず、地元社会のネットワーク、独立した経済組織や固有の文化を含む「ソフト」として理解しています。常に変化するこの「ソフト」を理解すること、既にあるものを把握して活かすこと、街の発展をよい方向に持って行くことは「近所の大学」の目的です。

欧州グリーン首都ハンブルク
IBAの様々なプロジェクト。上から下:▶「IBAをやめて、安い住宅をくれ!」と、反対の声もあります(撮影IBA Hamburg GmbH/Jost Vitt)▶2010年の夏に開かれた自転車祭り(撮影Artur Sobowiec)▶若者に人気の音楽祭「ドックヴィル・フェスティバル」(撮影Stefan Malzkorn)▶水をテーマとした住宅のビジョン(設計Architektur Martin Hecht)▶太陽発電・発熱、地域暖房と屋上喫茶店が計画されている第二次世界大戦のトウチカ(撮影Martin Kunze)。

居住環境

住宅問題の解決も困難です。地区内の多くの建物が古くなり、「住みにくい」と言われていますが、家賃が安い。建物の改善は必要ですが、家賃が高くなり、今の居住者のクラス空間を奪ってはいけません。新しい建物を今のニーズに合わせて建てることは簡単ですが、数多く存在する住宅の改良は大変ですが、人のなじんでいる空間を残し、環境負荷を減らすためには既存の建物を最大に活かすべきです。

築70年の812世帯市営住宅街が一つの住環境改良プロジェクトとなりました。居住者が何を望んでいるかを把握するためのインタービューが事前にそれぞれの母語で行われ、そのニーズに応じた改造計画が作成されました。典型的な赤煉瓦ファサードを残しながら部屋割りを工夫し、建物裏にベランダを増設し、お風呂や台所を入れ替えることになっています。膨大な工事の間、居住者は別の市営住宅に住んでいますが、ほとんどの人が元の部屋に戻る予定のようです。プロジェクト規模が約7800万ユーロですが、暖房・断熱がついでに新しくなるので、エネルギー費が3割減る見込みです。

住宅を囲む公共空間もプロジェクト対象となっています。公園、広場や道路が住民参加で改造され、誰でもが借りられる公民館が建設されました。

住宅が不足しているハンブルクですので、住宅の新設も当然にあります。集合住宅、外国人居住者の様々な文化に配慮した老人施設や個人が一緒になって建てる住宅など、形は多様です。住宅の環境影響を減らすためには、リンク「気候パスポート」を最大に活かすことになっています。しっかりした断熱、熱を保つ換気システム、再生可能エネルギーを使った暖房や屋上の太陽発電・発熱に関しては補助がでるモデルプロジェクトが60以上あります。建物のエネルギー消費を9割減らすことが目的です。

アートとイベント

地区内の雇用を増やすために、企業が移転した空き家となった建物をメディア、デザインやファッション関係の零細企業に貸し、さらなるサービスとしては専門教育を提供し、共同の展示場を用意することになっています。零細企業で働く人だけではなく、インキュベータセンターや館内のカフェテリアのスタッフも必要ですので、長期失業者が再就職できる職場が期待されています。

2010年の夏に大きな自転車イベントを開いた「サイクル・タウン」も長期失業者の再就職を目指しています。「サイクル・タウン」のおもな取り組みは地区内の自転車ガイドツアーだけではなく、自転車のラックや自転車の特殊車両を作ることです。

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メトロゾーン

「メトロゾーン」は鉄道、道路と港湾の膨大なインフラにより分断され、産業に挟まれ、衰えた住宅地を抱えている暮らしにくい街区のことです。

地区の中心市街地

ヴィルヘルムスブルク駅州は築30年の高層団地が多くかなり殺風景です。小規模の住宅、オフィスや小売店などを増やし、この築を多様で生き生きした地区に改造する予定があります。

提案されている新設の建物には4つの面白いタイプがあります。それは住んでいる人の生活スタイルに応じて部屋割りを調整できる「ハイブリッドハウス」、曲がるソーラーパネルを含むタープや微生物を含む先端的な建設材を使っている「スマートマテリアルハウス」、従来の建設材を使いながら個性に満ちた雰囲気を手頃な値段で出そうとしている「スマートプライスハウス」とリンク国際園芸博覧会(IGS)の域内で建設される、湖に浮く「ウォータハウス」です。「スマートマテリアルハウス」が2050年にEU域内で予定されているゼロCO2基準を満たすことになります。

さらには、「州都市開発・環境省(BSU)」の庁舎が駅前に建設予定です。建物の1階が公開され、住民へのサービスがここで提供され、都市の模型を楽しめるようになります。この建物がリンク持続可能な建築のためのドイツ協会 (DGNB)の品質認証マークを受けるために、柔らかい曲がった形が特徴である建物が厳しい省エネ基準を満たさなければなりません。

欧州グリーン首都ストックホルム
IBA対象地区の地図。上から下:▶18世紀末のヴィルヘルムスブルク地区は数多くに島々に渡る農地でした。右上にはハンブルク市、右下には当時はハノーファ王国に属したハルブルク市があります(地図Gustav Adolf von Varendorf)▶IBA対象区域と現在の産業地区、住宅地と緑地。(地図Open Street Map *)。

ウォータフロント

港に面しても、地区内で水面を楽しめる空間が案外少ない。フリーポートの港湾施設が高いフェンスに囲まれていますが、EUの影響を受けてその面積がますます狭くなります。コンテナが普及した結果、不要となったバースもたくさんあります。住宅の近くにある廃止されたフェンスを囲むフェンスに扉を開けて、レクリエーション空間が増えてきました。将来は自転車、インラインスケートや徒歩で歩ける遊覧コースや中心市街地への渡し船が予定されています。また、昔からある中州の運河や排水溝を改良し、ボートで遊べる空間を増やすことになっています。

エルベ川を渡ったルブルク地区にはもっと典型的なウォータフロント再開発計画があります。元々港湾施設が集中し、元々はハルブルク要塞都市の中心であったリンク「城島」とそれに隣接する運河沿いの土地では住宅や公園を増やし、暮らしにも遊びにも魅力的な空間を形成することになっています。

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気候変動における都市

1962年の大洪水にあった中州は気候変動に敏感です。このことをきっかけに、環境影響を減らす取り組みが重視され、IBA地区に関する気候保護計画が作成されました。

再生可能エネルギーの普及

リンク再生可能エネルギーを使った発電・発熱に関しては、驚くべきプロジェクトが2つあります。その一つは有害物質が1979年までに廃棄され、環境問題として注目されてきたリンク最終処分所です。環境影響を減らすために、面積約42ヘクタールの廃棄物が80年代に不透水層に包まれ、ゴミから発生するメタンがバイオガスとして使われています。今後は風力発電所とソーラーパネルを設置し、ゴミの山を2千世帯にエネルギーを提供できる「エネルギーの山」に改造することになっています。展望台や産業廃棄物と再生可能エネルギーに関する展示場を設置し、現在は閉鎖されている空間が公開されます。

もう一つの驚くべきプロジェクトは第二次世界大戦に建設された膨大なリンクトーチカの改造です。地区の中心市街地にあるトーチカの屋上にソーラーパネルをつけて、中にエネルギーを蓄蔵できるタンクを増設し、将来はさらに地熱を活かことが予定されています。屋上の喫茶店が予定され、トーチカがさらに展望台となります。改造工事が2010年1月から始まりました。

洪水の対策

大きなコンテナ船がハンブルク港に着岸できるように、エルベ川の水路が長年にわたってますます深く掘られてきました。その結果、潮の干満差が100年年前の80cmと比べて、3.5mでかなり大きくなりました。洪水の恐れがあるだけではなく、数え切れない柏木の杭を基礎に使っている歴史的建造物の基礎部が空気の影響を受けて腐りやすくなります。

遊水池を増やすことにより潮の差を減らす取り組みがある一方、浮く建物やピロティ型の建物など、洪水に強い建物の構造を提案することになりました。

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IBAプロジェクトの特徴

現在は、合わせて75プロジェクトがIBAプロジェクトとして登録されています。多国籍コミュニティの「コスモポリス」は32プロジェクト、中心市街地と郊外に挟まっている「メトロゾーン」は30プロジェクト(その内3つは他の地区にある「リファレンスプロジェクト」です)、再生可能エネルギーなどの「気候変動における都市」は13プロジェクトです。住宅やインフラなど、ものを造るプロジェクトは多いが、教育や人々の交流など、「ソフト」の改良を目指しているプロジェクトもあります。

すべてのプロジェクトが以下の7つの条件を満たすべきです。

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思ったこと、感じたこと

吹雪の中でしたが、再生可能エネルギーを中心に、いくつかのIBAプロジェクトを2010年11月に見学しました。初めてIBAに触れた一昨年と比べて、具体的なアイデアと目で見えるものがかなり増えてきたことは素直な感想です。いろいろな問題を抱えている地区の改良はそもそも大変ですが、住民参加になれていない人が多い多国籍社会や希望を既に捨てた低所得者を巻き込む取り組みはさらにハードルが高いと思いました。

住環境が良く成り、地区が魅力的になると地価が上昇し、低所得者が住めなくなること(いわゆる「ジェントリフィケーション」)を恐れている人は地区内外に多くいますが、悪くなる一方の地区を捨ててはいけません。両極端の中をとって、地区をよい方向に持って行くことは大変な課題であることが今回のIBAでよくわかります。そのためには、地区の今後の発展を十分に見守りたいと思っております。

あと3年間続くIBAハンブルクが成功するかどうかはまだわかりませんが、地区内ではいろいろな人が動きだしたことと、地区に関する意識がハンブルク市内外で少しでも高まったことはIBAの一つの効果とはいえないでしょうか。

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最終更新:2011年1月28日
© Susanne Elfferding. All rights reserved.

原図は外部リンクオープンストリートマップに基づきます。 ライセンス:Creative Commons 外部リンクAttribution-ShareAlike 2.0 Generic License