「再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度があるので、ドイツの電力がものすごく高い」とは、日本でたびたび耳にするうわさです。しかし、それが本当にそうでしょうか。
ドイツ国内では買い取り制度を見直す議論が発生したので、買い取り制度と電気料金の関係をしっかりと整理してみましょう。
内容
基礎知識をしっかりに:ドイツの電気料金 ||
さらに知っておきましょう:電力製造と所有形態 ||
電力の需要が減り、価格が下がるが、消費者が関係ない ||
電力が余っても、石炭の火力発電が増える ||
電力を使用するほど、買い取り制度が関係ない || 電力価格が不透明すぎる ||
それでは、どうして買い取り制度を見直すのか
ドイツエネルギー水道連合会(BDEW)によりますと、3人家庭が2013年に1kWh当たりに、平均0.2873ユーロを払っています。
発電、送電や販売費などを含む電力の基本的な価格がエネルギー源を問わずに、取引所で決まります。しかし、再生可能エネルギーを製造者から買う価格が保証されているので、保証された金額と基本的な価格の差を埋めることが必要です。そのためには、賦課金が発生します。この賦課金の金額がが2014年に1kWh当たりに0.0624ユーロとなります。
特に原発や火力発電所など、大型の発電施設が主に大手の電力会社4社のものとなっています。その一方、再生可能エネルギーに携わっているのは主に中小企業、農家、組合や個人で、地域内で活動するものです。再生可能エネルギーのシェアが伸びるとともに、広域的にエネルギーを供給する大手4社のシェアが減っていきます。
その背景には、電力市場の規制緩和があります。1998年には、消費者がエネルギー供給者を自由に選べるようになりました。それ以前は、日本と同様に地域を独占するエネルギー供給会社がありました。しかし、特に福島原発の事項以降には再生可能エネルギーに関する意識が高まり、原発を抱えている電力会社との契約を解約する個人がどんどん増えました。
大手4社が長年の間、再生可能エネルギーを軽視しました。「ドイツの太陽光発電がアラスカのパイナップル栽培ほど無意味なことだ!」と、RWE社の社長が2年前に発言したそうです。しかし、太陽光パネルがどんどん安くなったので、太陽光発電がかなり安くなりました。その結果、補助金なしでも屋根に太陽光パネルを設置し、自分が使用する電力を自分で作った方が電力を買うことより安くなっています。
大手が危機感を抱え、再生可能エネルギーに反対する必死なロビー活動を行ってもおかしくありません。
ライプツィッヒの電力取引場で決まる電力の価格がどんどん下がります。2019年に関する基本発電量の予約価格が始めて0.04ユーロを切りました。
電力の値段が下がりますので、減価償却が終わっている火力発電所で作られている電力を国内で売っても利益を得られません。電力会社がその結果として電力を外国に売ります。2013年の電力輸出量が30TWh(前年は23TWh)と推測され、輸入を大きく上回ります。ドイツ環境支援協会によりますと、そのほとんどが火力発電所で作られた電力です。この電力輸出が国内のCO2排出の問題も、送電網のそもそも不十分の要領から発生する問題も悪化すると、ミュンヘンのエコ研究所が強調します。
取引所で決まる電力価格が下がっても、電気会社が一般家庭の払う電気料金を安くしてくれないニュースを最近たびたび聞きました。企業などの大口顧客が払う電気料金のみが下がるそうです。確かに、シュレースビッヒ・ホルシュタイン州の商工会議所によりますと、中小企業の払う電気料金が1kWh当たりに平均に0.1288~0.1582ユーロで、一般家庭が払う電気料金より遙かに安いのです。
今年では、併せて1000MWの火力発電所が廃止された一方、前例のない5300MWほど、新たな火力発電所が電力系統とつながりました。建設中の火力発電所がさらにあります。その結果としては、電力の取引価格がさらに下がる見込みです。
「安定した電力供給のためには火力が不可欠です!」とは特に大手の台詞ですが、「大手が電力の輸出で儲かろうとして、無意味な火力発電を減らそうともしない!」、または「大手が再生可能エネルギーをわざと邪魔しようとしている!」声も聞きます。
電力会社が火力発電に関して買うべき排出権にも問題があります。安すぎます。しかし、排出権の数を減らす動きが全くみえません。今年の春には、排出権の価格がCO2の1t当たりにたったの4.09ユーロに下がりました。石炭の火力発電がところで1MW当たりにCO2を1トン前後に排出するそうです。
グローバルな市場においては、ドイツ企業の経済力を高めるために、大量のエネルギーを使用する工場などが再生可能エネルギー賦課金の免除を申請できます。2400ほどの企業が2014年の免除を連邦経済・輸出管理庁(BAFA)に申請したことが今年の夏に大きな騒ぎを起こしました。2012年に免除された企業の数がわずか813社でした。翌年の2013年には、その数が急に2055社まで伸びました。緑の党によりますと、今年の免除のために失われる金額が70億ユーロにも上ります。その結果、中小企業や一般家庭が担う賦課金が大きく増えます。
年間の電力使用が1GWhを超え、電気消費から発生するコストが粗付加価値の14%を超える企業が免除を申請できます。その結果、大手の化学工場やアルミの工場などだけではなく、国内の中小企業の競争相手となる大手とするパン工場などが対象となりえます。
ちなみに、一般家庭の年間電力消費が平均3500kWhです。
再生可能エネルギーに関する補助金が主に買い取り制度から入ってきます。その結果として、再生可能エネルギーのコストが毎月に電気料金の一部となり、目に見えます。
その一方、長年の間に火力や原発に注がれた補助金が一般税金から入り、消費者の目に見えないものです。皆の意識が低いのです。しかし、原発の開発が盛んであった1970年には、今の再生可能エネルギー賦課金と同じような賦課金があったとしたら、その金額が1kWh当たりに0.702ユーロほどだったはずです。再生可能エネルギーの現在の賦課金を10倍以上上回る金額です。
さらには、いわゆる「外部不経済」があります。外部不経済とは、誰もがお金で払わない、最終的には社会が担うべきコストのことです。その中にはたとえば褐炭の露天掘りから発生する環境破壊、原発の解体やその燃料の処分、または環境汚染から発生する環境影響などがあります。原発がどれだけの電力を必要とし、どれだけの手間とお金がかかり、どれだけの未解決の問題を生み出すことが福島の事故以来、誰でもが痛いほどわかります。
グリーンピースによりますと、2013年には電力から発生する外部不経済の全額が400億ユーロに達します。
今議論されている買取制度の見直しに関しては、EUの影響が大きいといえます。
大企業の買い取り制度からの免除を欧州委員会が目の敵にしています。欧州委員会がこの免除をドイツ国内の産業への補助と解釈し、EU域内のる公平に反するものと見なしています。エネルギー製造者や電力使用量が多い大企業の電力系統使用量が免除されることが同じくEUにより批判されています。
欧州委員会のエネルギー担当委員が今年の11月に買い取り制度の廃止を提案し、その代わりに現在開発中の再生可能エネルギー技術に関する補助を提案しました。具体的には、再生可能エネルギーの価格を今通りに保証せずに、取引所で決まった価格に固定の賦課金を加算することです。
しかし、市民の不満の声も確かに聞きます。個人と大企業の不公平な扱いに関する不満がその中には決して少なくありません。その結果、連邦政府がまず企業の賦課金免除にブレークをかけようとしていますが、最近はシステムそのものを見直す議論が増えました。
CO2の排出量削減に関しては厳しい目標を決めた連邦政府ですので、火力発電の問題を全く解決せずにシステムを見直してもよろしいでしょうか。発電による環境影響、将来の社会への影響や経済影響を減らすためには、むしろ外部不経済をしっかりと意識し、外部不経済の多いエネルギー源をしっかりと減らしながら外部不経済の少ないエネルギー源を増やす路を探すべきではないでしょうか。
最終更新:2013年11月13日
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褐炭の露天掘りの写真がウィキメディアコモンズの写真に基づきます。 撮影:Kateer。 ライセンス:Creative Commons Attribution ShareAlike 3.5 Generic License。