日本でも「歴史まちづくり法」が2008年に制定され、ごく一般的な市街地に伏在する史跡遺産は無いかという議論が最近活発になっていますが、「毎日見ているのに気づかない地味な遺産」の価値と行方はドイツでも常に話題となっています。
「IBAハンブルク」のモデル地区であるハルブルク地区の港はその一例として挙げられます。歴史を考慮した改造でもすでに失われてしまった空間構造は再現できませんが、地区の歴史を肌で感じる、元気な都市空間をつくることがこのプロジェクトの目的です。
ハルブルク地区の港を歩くと、無秩序に見える空間利用が目立ちます。忙しく稼働する運送会社や造船場のそばには崩れかかった零細工場が建っています。錆だらけの船やクレーンのそばには綿密に修復された保存用帆船が浮かんでいます。かつて鉄道駅のあった荒れ地のそばには丹精込めて再整備・転用された工業建築群があります。このごちゃごちゃした空間の中にはなぜか一般住宅まで点在しています。
この地の歴史を探ると、びっくりします。この港は1937年まで独立を保っていたハルブルク市の発祥地で、実は多くの史跡が地区内に眠っています。城壁と堀に囲まれた城塞がありましたが、19世紀の工業化に伴う港湾開発のためにほとんど消えました。しかし、よくよく見ると、城塞の形を今の地図でも確認できます。ど真ん中に建っている大きな賃貸住宅は実は14世紀のお城で、19世紀末に今の形に改造されたものです。
1990年にはハンブルクの市議会がこの地区に関する開発計画の作成を求めました。地区内の企業を守りながら空き地の再開発を促進し、史跡遺産、自然環境や地形と都市構造の特徴を保ちながら水を楽しめる空間を形成することが目的に掲げられました。経済振興を目指して、ハルブルク地区内にあるハンブルク工科大学の関連企業やベンチャー企業を誘致することが特に重視されています。そして次のステップとして、港の再開発方針が住民参加で作成されました。また、建築遺産、工業遺産や独自の空間構造遺産が建設誘導計画の「Bプラン」に記載され、その保護が保証されています。
しかしいくら詳細で現実的な計画を作っても、うまくいく部分とどうしてもうまくいかない部分があります。先端技術の企業やメディア関連企業が思いがけず工場の跡地に集まってきましたが、駅の跡地の再開発に抵抗する鉄道事業者が動こうともしません。19世紀中旬から徐々に大きくなったゴム工場は保存と再利用がすでに決まっていましたが、公害物質が検出され、建物を本当に残せるかどうかに関して活発な議論が始まりました。
どうなるかは今後も楽しみです。
最終更新:2009年3月26日
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