路線バスや進化した路面電車であるLRTなどの公共交通機関が通っている歩行者エリア(商店街)を「トランジットモール」といいます。ところで、タクシーも一応公共交通扱いですので、タクシーも通行可能です。
歩行者エリアが60年代後半からドイツ各地でどんどん普及してきました。その結果、クルマによって浸食された歩行者空間が取り戻され、人が商店街や中心市街地などでぶらぶらできる楽しい空間が更生しました。トランジットモールも全国各地にありますが、「トランジットモール」の概念はドイツで生まれたものではなく、一般的に使われている用語さえありません。この概念はむしろ「公共交通の通っている商店街」を計画的に増やしたアメリカで生まれました。決まった用語が無くても、自動車交通が商店街から排除された結果としてトランジットモールが公共交通はアメリカより発達しているドイツで自然に発達しました。
しかし、クルマでごった返した中心市街地が歩行者エリアになって、クルマはいったいどこに消えたのでしょうか。
自動車交通を減らす一つの工夫は駐車制限と駐車場の整理です。中心市街地の近くに広い駐車場を整備した都市や中心市街地の地下で駐車場を整備した都市が多く見られます。地上の駐車場の数がその整備と同時に減らされ、駐車料金が導入されました。駐車場探しがそのためにめんどくさくなった結果、公共交通の利便性が高まり、利用率が高まりました。しかし、補助金を受けてもそれだけでは生きていけないので、交通事業者もいろいろと工夫をしています。その中にはゾーン料金、様々な割引や便利な定期券などもありますが、季節限定の特別サービスもあります。その一つの事例はハンブルクで見られるクリスマス前の「荷物預かりバス」です。ショッピングに出かける人は多い季節ですが、だれが重たい荷物を引きずれて街と店を歩き回りたいでしょうか(駐車場が遠いマイカー派を含んで)。
駐車場管理と公共交通の利便性向上の他に、中心市街地での自動車交通を減らすもう一つの工夫があります。地図を見てもわかりますが、ほとんどの街の幹線道路が中心市街地を迂回し、郊外を通っています。中心市街地にどうせ用事のない通過交通がこのように中心市街地から消えます。
しかし、クルマが不便になった結果、住民、商店主や観光客などがぶうぶうと文句を言わないでしょうか。
歩行者エリアだけではなく、ゾーン30などのゾーン規制が急に増えた80年代当時は、いらいらした運転者がなれた街のふさいでしまった道を怒りながらさまよっていた覚えはありますが、今は誰でもが慣れたこの都市構造が当たり前になっています。狭い中心市街地を迂回することは(渋滞さえなければ)実は自動車交通のスピードアップにつながり、クルマにとってもメリットがあります。
中心市街地の歩行者空間は自治体にとっても不可欠です。都市間の競争が厳しくなった現在は楽しい歩行空間が「住民ホイホイ」の効果があります。なぜなら、魅力的な中心市街地がないと、オープンカフェや屋外イベントなどの楽しさを味わってきた人々が他の街に遊びに行ったり、引っ越していきます。その事実を知って、商店主もある程度積極的になりました(整備後には駐車場がどうしてもなくなり、工事中にはどうしても客足が離れますので合意形成はドイツでも手間暇のかかるものですが・・・)。実は、整備前の議論が長くても、歩行空間と町並みがきれいになり、客足が戻ってくると「整備してよかった」と思う商店主も少なくいません。「ゆとりのあるショッピング」はもちろん税収を狙っている都市にとっても、売り上げを増やそうとしている商店にとってもセールスポイントとなりす。
ところで、群馬県の前橋市や沖縄県の那覇市など、トランジットモールが今日本でも増えています。
国土交通省の「くらしの道ゾーン」と「トランジットモール」のページ
最終更新:2009年5月11日
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ボンのLRTはウィキメディアコモンズの写真に基づきます。
撮影:Qualle。
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歩行者信号の写真はウィキメディアコモンズの写真に基づきます。
撮影:André Karwath (利用者:Aka)。
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