正確にいうと国際建設博覧会(IBA)のプロジェクトではありませんが、IBA地区に隣接する旧港湾施設にも面白い産業遺産再開発プロジェクトがあります。
ゴムや当時のどの産業にも必要であったパーム油の生産が盛んになった19世紀には、まだハンブルク市と合併していなかったハルブルク市がドイツの他都市を抜いて先端技術を誇りました。ゴム製造の関連企業、サービス業やインフラも発達しましたが、時代の変化とともに郊外などに移転する工場や閉鎖する工場が増えました。現在、区がハイテク企業を誘致し、そのイメージを少しでも取り戻そうとしています。
道路、鉄道と港湾が発達しているのでアクセスしやすく、地価も安いので、ハルブルク地区の港には大きなポテンシャルがあると言われています。このチャンスを捕えたのは、あるハイテク企業群です。その中には例えば飛行機メーカーの「エアバス」、メディア関連企業や工科大学関連の研究所があります。NPO法人「Channel Hamburg」が地区のマーケティングを行い、会員となっている企業間のネットワーキングと情報交換に努めています。
この先端企業グループが入居している建物は古い工業建築とモダンな建築の大胆な組み合わせで、いろいろな発見ができる面白い空間です。この建築群の主な建築遺産は移転した洗剤工場、閉鎖した製油工場とこれに付随していた穀物倉庫です。特に製油工場と穀物倉庫の改造は大変だったそうです。
保存状態があまり良くなくても2001年に建築遺産に指定された穀物倉庫の一番古い部分のみを残し、見るからに新しいオフィスビルをそのそばに建てることにより、全く別の景観が生じました。ただの大きな空洞であった倉庫を階層式にして、外壁に窓をあけることが必要でした。建物の歴史を忘れさせないように、穀物を船から降ろすポンプなど、穀物倉庫のいくつかの備品が今でも保存されています。
この倉庫のそばに建っている製油工場の再整備はそれよりも大きな努力を必要としたようです。起業100周年を迎えた1983年に閉鎖されて放置されたので、建物の屋根が崩れて、赤煉瓦の外壁からは白樺が生えてしまいました。しかし、建物の規模があまりにも大きくて、その転用は困難でした。
解決案が2005年にやっと出されました。建物の一部を飲食店や事務所に改造し、地区の再開発のために事務所が増えた結果どうせ備える義務であった駐車場を残りの部分に入れることになりました。周辺企業用の保育所も館内にあり、屋根の一部が遊び場として使われています。
ところで、工業建築の保存は非常に長い努力と手間がかかるのに、なぜ古いものを完全に撤去するスクラップ・アンド・ビルド再開発を行わないのでしょうか。
グロバリゼーションの影響で進んでいる都市化の結果、個性のない、判で押したような空間が世界各地で増えていることはよく指摘されています。どこにでも見られるようなショッピングセンターがその好例です。この傾向に対抗しながら各地の歴史や文化を強調し、アイデンティティーを発揮しようとする動きもあります。古いものを新しいものの裏に隠すのではなく、むしろ古いものと新しいものを大胆に組み合わせて、盛衰の循環である歴史をなるべく生々しく感じさせる空間形成が、ドイツの最近の都市建設理念です。
産業や歴史のシンボルとなる古い工場には、単純なメリットがあります。中心市街地に近く、交通の便が良く、地価が安い。さらに、主観的な価値も指摘されています。昔の豊かさを表現する工業建築とすっきりしたモダン建築の組み合わせはクリエイティブな雰囲気を持ち、古い価値観を破りながらの再出発を表現できます。この革新的な雰囲気が先端企業にとっても魅力的であることは判るような気がしませんか。
最終更新:2009年3月26日
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